★島ことばの散歩道23

=横山晶子

◎しまむに教室始動

 6月5日、沖永良部島知名町中央公民館と国立国語研究所の共催で、月1回の「しまむに(方言)教室~記録者・伝承者養成講座~」が始まった。この講座の目的は、地域のことばを伝承していくために、地域の中で方言を記録したり、教えたりする人を増やしていくことである。

 まず「方言を記録する人」について、よく知られているように方言は集落毎に違い、その一つ一つが地域の文化と繋(★つな)がった貴重な言葉である。しかし、奄美・沖縄諸島には800以上の集落があるといわれており、その全てを行政や研究者が記録することは不可能だ。でも、方言を話す人や地域に暮らしている人なら、日常生活の中で記録を残していくことが可能である。こうした「記録をする人」を増やしていくために、この講座では、受講者自身が調査をしたり、録音・録画したりする経験をする。

 次に、方言を話す人たち・分かる人たちが、自身の方言の知識に加え、しまむにの仕組みも理解することで、子どもたちにも教えられるようになることを目指している。例えば、方言で「今のこと(現在)」と「昔のこと(過去)」を表し分けるにはどうしたらいいだろう? 「会う」という動詞を例に挙げると現在形は「おーゆん(会う)」、過去形は「おーたん(会った)」、「帰る」だと現在形は「むどぅゆん(帰る)」、過去形は「むどぅたん(帰った)」のように、動詞の中の音が規則的に変わっていることが分かる。講座では、こうした「しまむにの文法の仕組み」についても体系的に学ぶ。

 最後に、日常で使えるしまむにを楽しむために「場面別会話集作り」の活動を毎回行う。これは、例えば「飲み会に誘うとき」「牛のセリに行くとき」「カフェで注文するとき」など具体的な場面を想定して、そこで使うしまむに門答集を作り、ミニ劇で発表するというものである。第1回は、コロナ禍の生活について話す、こんな会話集が生まれた。

「ふぬ やーわ ころなし のーむ みじらしゃ なんやー(この頃はコロナで何も面白くないね)」  「ねえさん、のーか ゆっくゎ くとぅぬ なーぜー?(姉さん、何か良い事ない?)」 「ひるわ をぅじばてぃから くさべーどぅ はがてぃ あちゅしが よーねーわ 男はつらいよぬ DVD みちゅんどー。(昼はサトウキビ畑で草刈りばかりしているけど、夕方は『男はつらいよ』のDVDを見ているよ)」  「わきゃむ みーぶしゃやー ひゅー い゛る みーが いじ  ゆくゎい?(私たちも  見たいね。今日夜見に行ってもよい?)」  「ゆくゎんどー うむ てんぷら つくてぃ まちゅんどー(良いよ。芋の天ぷらを作って待っているよ)」

 講師陣が東京在住のため、今回は感染拡大防止のために、初めてオンラインでのしまむに教室であった。コロナ禍で、地域のさまざまな伝統行事が出来ず、残念な思いをしている人がたくさんいると思う。本当に辛い時期だが、今は今できる形で、地域の文化を繋いでいけることを願う。しまむに教室は毎月第1土曜日に講座を開き、オンライン視聴が可能だ。興味がある方はぜひ知名町中央公民館までご連絡ください。

(日本学術振興会/東京外国語大学)

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 訂正 6月3日付の記事で、写真説明に誤りがありました。「写真撮影:太田美乃里」におわびの上、訂正いたします。

 ▽写真説明

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しまむに教室の様子=6月5日、知名町中央公民館(撮影:前利潔)

 ★はルビ

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