南海日日新聞

何歳くらいまで通じるか?

南海日日新聞2019年6月5日掲載:島ことばの散歩道10(執筆:横山晶子)再掲載


「若い人は島ことばをわからない」と聞くけれど、それでは一体何歳くらいの人まで島ことばを理解できるのだろう?

こんな素朴な疑問を、言語実験によって調べる研究を、2017年から18年にかけて、トヨタ財団の共同研究事業(「多文化・多言語社会としての日本の理解」代表:山田真寛)として行った。 現在、青森県の津軽、鹿児島県の市内、沖縄県の宮古島でも同様の調査が行われているが、今回は沖永良部島の結果を報告する。

この実験では、実験の協力者に自分の集落の方言で作られたテスト音声を聞いてもらう。 そして、内容に関する質問(共通語)に、共通語で回答してもらう。グラフが、沖永良部島で行った実験の、調査協力者の年齢と点数(20点満点)をまとめたものである。

年齢と島ことばの理解度(沖永良部島国頭集落の結果)

■60代と40代の違いは?

沖永良部島では、大体60歳以上が方言を話せる人と言われている。 そこで、私たちは「60歳以上が『方言を話す人』なら、40代では理解度が半分くらいになるんじゃないか?」と想像し、 40代と60代以上の10人ずつに実験を受けてもらった。しかし、20人の調査が終わった時、予想外の結果が出た。 実は、60代以上の正答率と、40代の正答率にほとんど差が出なかったのである。 もちろんこのテストは「ゆっくり・はっきり」発音されるので、日常生活で話される方言よりは聞きやすい。 それでも、方言独特の単語や文法を知らなければ、高い点数はとれない。 つまり沖永良部島では、40代以上は島ことばの基本的な言語知識を持っていることになる。 これは筆者が調査した国頭集落でも、共同研究者が調査した上平川集落でも同じであった。

■理解度が下がるのは?

それでは、一体何歳くらいで島ことばの理解度が下がるのだろう? 20代、30代にも協力してもらうと、方言の理解度のグラフは図のような推移を辿(★たど)ることがわかった。 グラフから分かるように、40代以上は点数が高い(=方言の理解度が高い)一方で、40歳くらいから点数が少し下がり始め、 30代後半から20代にかけて急速に点数が低くなることが分かった。 言葉の継承が、ある年代から急激に途切れ始めることは諸言語で報告されているが、沖永良部島の場合はそれが30代後半くらいから始まっているようだ。

この結果についてどう思うだろう?実は、このテストを東京の大学生に受けてもらうと、平均点は20点中、1点にも満たない。 島ことばを研究している研究者たちにとって、島の若い人がこれだけ方言を理解していることは驚きの結果であった。

自分では話さないけれど、聞いたら分かる人たちは「潜在話者」と呼ばれる。 この人たちは、話す機会が十分にあれば、話す(話せる)ようになる可能性がある。 沖永良部島では30代~50代という幅広い世代が「潜在話者」にあたる。 この世代が言葉を継いでいくことで、おじいちゃん・おばあちゃんの島ことばが、次の世代まで伝わっていくことを願いたい。

※実験にご協力いただいた国頭・上平川集落の皆さまに改めて御礼申し上げます。


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