奄美・沖縄の島ことばは「いま何もしなければ」なくなってしまう危機言語であると言われている。 言葉は本来、家庭や地域の中で継承されるものだが、家の中で島ことばを使う機会は少なくなっている。 そこで、筆者も参加している「言語復興の港プロジェクト」では、家庭や地域の中で、楽しみながら島ことばを学ぶための、琉球諸語の島ことば絵本の出版を目指すことにした。 出版資金を募るため、11月27日~1月31日まで、クラウドファンディング(インターネット上の募金活動)に挑戦することになった。

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琉球諸語絵本出版プロジェクトのイメージ図

今回、出版を目指しているのは『塩一升の運(ましゅ いっしゅーぬ くれー)(沖永良部島)』『星砂の話(竹富島)』『カンナマル クールクの神(竹富島)』『ディラブディ(与那国島)』の4冊である。 絵本は島々に伝わる昔話を元に、島ことば・日本語・英語の表記、ことばの解説、朗読音声データが付いている。 絵も取材に基づいて描いているため、言葉だけでなく、昔の風景や暮らしを知ることもできる。

今回、クラウドファンディングという手段を取るのには二つの目的がある。 まず、商業出版に乗せることである。研究費や助成金を使って絵本を印刷すると、絵本を届けられる人が限られてしまう。 作るだけでなく、多くの人に「使ってもらう」ため、興味があれば誰でも手に入れられるようにしたい。 また、これまで出版した絵本(『シマノトペ』など)は私家出版(自費印刷)であったが、今回はもう一歩進んで出版社(ひつじ書房)からの発行を目指す。 全国の出版販路に乗せてもらうことで、直接お会い出来ない方や島外の方にも絵本を届けたい。

もう一つの目的は、より多くの人に危機言語について知ってもらうことである。 クラウドファンディングをすると、これまで関係がなかった人にも、情報を届けられる機会が増える。 今回の活動を通じて、より多くの人に奄美・沖縄の言葉に興味を持ってもらい、危機言語について考えるきっかけを作りたい。

私が担当した沖永良部島の『塩一升の運』は、同じ日に生まれ、海の向こうから来た神様に運命を授けられた男女の物語。 今回の絵本は、和泊歴史民俗資料館の先田光演先生がお母様から聞いたお話を元にした。 小説家の中脇初枝さんによると、神様が子どもの運命を決めるという信仰は古代からあるという。 『塩一升の運』に似た物語も全国にあるが、奄美・沖縄では父親が海辺で潮待ちしている時に神の声を聞くのに対し、本州では父親が山の大木やお宮で神の声を聞く。 こうした昔話の背景にある思想世界も楽しんでもらいたい。

このほか『星砂の話』は、竹富島に星の形をした砂がある由来を辿り、天の星の夫婦と子供たちの運命を描く。 『カンナマル クールクの神』は、多良間島に生まれた絶世の美女カンナマルの悲劇的な運命を描く。 『ディラブディ』は、与那国島に実在した人物ディラブディが、漁に出かけ大漁で帰ってくる民謡を元にした物語。

いつもお世話になっている地域の方々、本当にありがとうございます。 興味を持っていただけた方は、こちらをご覧ください(応援のほど、どうぞよろしくお願いいたします!

えらぶむに ©2022. Photo: ARISA KASAI