7月16日、宇検村の久志小中学校で、小中学生が方言調査を行う特別授業「なりきり!方言研究者」が行われた。 国立国語研究所の麻生玲子特任助教のプロジェクトで、地域の人たちに方言調査を体験してもらい、負担のない資料収集手法を地域の人たちと共に考察することを目的としている。

kushi 方言調査をする久志小中学校の子どもたち=7月16日、宇検村(撮影・麻生玲子)

授業では、まず「方言研究にどんな意味があるのか?」が紹介された。 この連載では「再活性化」に着目することが多いが、方言研究には他にも素敵(★すてき)な意義がある。 例えば、第9回の連載では、島ことばの中に古語が生きていることを紹介した。古語の中には、文献に記録されていないものもある。 こうした、記録に載っていない古語を手掛かりにすると、文献研究だけでは分からない日本人の移動の歴史や、日本語の歴史を探ることができる。 全ての方言の中には、このような壮大な謎を解く鍵が隠されているのだ。この点に着目して、麻生助教は「方言研究とは、いわば「宝さがし」のようなものだ」と言う。

次いで、録音機器の使い方や、平仮名で書き取りにくい音の書き方を学び、実際に宇検方言の話者に聞き取り調査を行った。 1班4人で、録音係、書き取り係、インタビュー係を分担し、身体語彙60語を調査、方言の「木」「前」「豚」など、 書き取りにくい方言も第8回で紹介した「琉球統一表記法」を使い「くぃ゜―」「めぇ゜―」「‘わー」と書き取った。

方言調査を体験した子どもたちは「知らない方言を聞けて良かった」「もっと方言のことが知りたい」など、身近な言葉の面白さに気付いた様子。 「自分で考えられたのが楽しかった」「協力してできたのが楽しかった」と、調査の過程を楽しんだ子どももいた。 今回は調査手法の授業だったが、調査結果の整理やホームページでの公開など、研究の続け方はいろいろとある。 「楽しかったら、自分たちでどんどん進めてほしい」と麻生助教は言う。

このプロジェクトが始まった背景には、シマジマの言葉がどんどん失われていく中で、研究者だけの活動には限界がある、という危機感がある。 奄美・沖縄諸島だけでも800以上の集落がある中で、その全てを専門家が調査するのには100人が一生をかけても足りないだろう。 でも地域の人たちが活動をしたら、ずっと効率的に記録が進む。

地域に人材が育つことにはもう一点良いことがある。それは、地域自体に貴重な記録が残ることである。 研究者が調査した結果は、どうしても地域の人に届きにくい。しかし、地域の人自身が調査した記録は、本人の知識と共に地域に残っていくだろう。

奄美・沖縄の島々には、既に方言集がある地域もあるが、音声や映像までついたものはまだ少ない。 また、島ごとの方言集はあっても、言葉の最小単位である「字(集落)」の言葉が十分に記録されているケースは少ない。 この取り組みが広がれば、それぞれの地域に貴重な言葉の記録が残っていくだろう。

※出張方言研究授業はどこでも受け付けております。ご興味がある方は、麻生玲子助教のホームページからぜひご連絡ください。 (日本学術振興会特別研究員/国立国語研究所)

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